おかめゆわい Turtle's head knot

美波町が,日和佐町と由岐町に分かれていた2002年に,うめぐみ事務局はまのが書いたウミガメの記事を紹介します!

海亀の産卵地として徳島県日和佐町は有名な町であるが、その北隣には由岐(ゆき)町という漁師町がある。 そこの漁師の間で、「おかめゆわい」と呼ばれているロープワークがある。「おかめ」とは海亀のことで、徳島県南では海亀(主にアカウミガメ)を尊び「御亀」と称している。 「ゆわい」とは「結わえる」の名詞で、「結び」を意味する。 つまり、海亀を一時的につなぐときに使う結びのことである。 この結びの標準和名(?)は「ひばり結び」で、英名はcow hitch(牛結び)と言う。生き物を一時的につなぐときに用いる結びで、一方に力をちょっと加えれば簡単に解けるのが特徴である。 

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まとまった休みがとれる時には、由岐町の義父と定置網漁に出ることにしている。ある日の漁では、網の中で大きなアカウミガメが泳いでいた。漁師たちは、その首にロープをかけ「おかめゆわい」で船端に一時的に繋いだ。このように繋ぐのは、万一、海亀を窒息させて殺してはいけないからで、苦しくなったらすぐに緩めてやるとのことだった。漁が終わった後で海亀はそのまま船でやや沖合に曳いて運ばれ、そこで海に放流された。 

家内の話によれば、祖父の「亀六」爺は、生前、自分が名付けた孫の「亀弘」君に見せるために、わざわざ沖から海亀を「おかめゆわい」して港まで曳いて戻ったことがあるそうだ。 亀六爺は「亀」と言う名に誇りを持っていたが、現在を生きている孫の方は、子供の頃から笑い物にされて良い迷惑だったと言い、二人の息子に「亀」の字を伝えることはなかった。 

一昔前は、イヤと言うほど網に入った海亀も、今では年間に数頭に減ってしまった。 「おかめゆわい」の名称も、海亀にちなんだ氏名も、故郷から消えてしまいそうで何ともやるせない。

浜野龍夫:うみがめニュースレター, 54号, p.7-8 (2002) より

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定置網の肩縄をとる網元の別宮亀六(手前)と弟の角次(右)兄弟。 1983年8月撮影。

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